離婚をしたいと思ったとき、多くの方は別居し、そして弁護士を使って離婚の手続を進めるでしょう。しかし、別居にあたっては、引っ越し代のほか賃貸物件を借りるのであれば敷金礼金、そのほかその後の月々の生活費などの費用がかかりますし、弁護士を使うにもまとまったお金が必要になります。
ご自身が働かれていて自由にできるお金があればいいですが、そうでない場合はどうすればいいでしょうか。今回は、離婚をしたいけれどもお金がないという方が知っておきたいことをご紹介したいと思います。
1、経済的な理由から離婚できない?
離婚相談にいらっしゃる方の多くが離婚に踏み切れない理由としてあげられるのが、経済的な不安です。先ほども述べたような、別居にかかる費用や弁護士費用等のほか、その後の子どもにかかるお金のことや、長らく主婦をしていた場合には就職ができないのではないかなど、離婚の手続中や離婚後の経済的な問題に対する不安から、現状を我慢している方がましではないかということで離婚に踏み切れないとおっしゃる方が多くいらっしゃいます。
しかし、これらには解決策があります。それらについて詳しく見ていきたいと思います。
2、お金がなくても離婚するための流れは?事前の準備は
まず、離婚にあたってどれくらいのお金がかかるのか、別居後・離婚後どれくらいの収入を得ることができるのかを把握する必要があります。
具体的には次の点を確認しましょう。
(1)離婚にあたっての支出(別居費用、弁護士費用など)
(2)離婚時に得られるお金
・相手から獲得できる金銭(財産分与、慰謝料など)
・助成金(お住まいの自治体から支給される母子手当など)
・親御さんからの支援
(3)自分で稼ぐことができるお金
これらの詳しい内容については次の段落以降で見ていきたいと思います。また、お金の面以外の準備については「専業主婦が離婚する際に知っておくべき12のポイント」をご覧ください。
3、離婚にあたってかかる費用
離婚にあたっては様々な費用がかかります。
まずは別居をするということになりますから、引っ越し費用、敷金礼金、新しく家具や家電も必要になるでしょう。これだけでも数十万円単位の支出を覚悟しないといけません。
また、離婚まで専業主婦だったという方であれば、今後のために仕事を始める必要があるでしょう。就職をしてお給料をもらうまでの生活費もあらかじめ考えておかなければなりません。さらにお子さんがいる場合、離婚によって学校が変わると、制服が変わったり、新しい教材が必要になるということが考えられます。
そして、離婚の手続を弁護士に依頼する場合、さらに数十万円単位のお金が必要になります。詳しくは「離婚の弁護士費用の相場と弁護士の選び方」の記事をご覧ください。
なお、法テラスを利用できる場合は、法テラスが弁護士費用を立て替えてくれますし、弁護士費用もご自身で探すよりも低額で済む場合が多いでしょう。
以上のような出費をトータルすると相当な金額が必要であるということが分かるでしょう。離婚を考え始めたらそれに備えてお金を貯めたり、仕事を始める・増やすということが必要になるでしょう。
4、別居したら婚姻費用分担請求
離婚の手続に入られる際に、多くの方が別居をすることになります。その際に、特に専業主婦の方が気になるのが別居後の生活費でしょう。
実は、別居後も夫に生活費の負担を求めることができます。これは法律上、夫婦は互いの生活を支える義務が定められているためです。この義務に基づいて夫から得られる金員を婚姻費用といいます。別居後、婚姻費用の分担を求めて調停を申し立てれば、申立てをした月の分から、双方の収入に応じた婚姻費用を受け取ることができるようになります。
したがって、別居をしたらその月のうちに婚姻費用の分担を請求する調停を申し立てるようにしましょう。この調停についての手続等の詳細は「婚姻費用の分担請求調停で生活費を確保するための全手順」をご覧ください。
5、離婚に際して相手からもらえる可能性があるお金は?
離婚に際して相手からもらえる可能性があるお金は①財産分与、②慰謝料、③養育費、④年金分割です。
(1)財産分与
財産分与とは、夫婦が結婚後に二人で築いた財産を、基本的に2分の1ずつに分けるものです。財産分与は、プラスの財産がある場合に行うものですから、財産が全くない場合や、たとえば自宅はあるがオーバーローンでトータルだとマイナスであると言った場合には行わないということになるので注意が必要です。
また、夫婦がそれぞれ婚姻前から有していた財産や、婚姻後に得た財産であっても相続で得た財産など相手方の協力によって築いたとはいえない財産(特有財産)は、基本的に財産分与の対象にはなりません。
もっとも、財産分与の性質の一つに、夫婦共同財産の清算以外に、離婚後の生活保障という面があるので、プラスの財産がない場合や、特有財産しかない場合でも、財産分与を行ってもらえる可能性があるので、扶養的な財産分与という点も主張するようにしましょう。
財産分与についての詳細や手続きについては「離婚時に損しないために!財産分与についてまとめ」をご覧ください。
(2)慰謝料
慰謝料とは、離婚の原因を作った者がこれによって相手方を離婚に追いやり精神的な苦痛を負わせたことに対する損害賠償です。したがって、慰謝料は常にもらえるものではなく、相手方が離婚の原因をつくったこと、そしてその原因が法律が定める離婚原因といえる必要があるのです。
したがって、たとえば性格の不一致などどちらかが一方的に悪いということができないような場合には、慰謝料を請求しても獲得することができませんので、注意が必要です。
より多く慰謝料を得るための方法等については次のページをご覧ください。
(3)養育費
これはお子さんがいて、かつ、あなたが親権者になった場合に限られますが、離婚後、基本的にはお子さんが二十歳になるまでの生活費として養育費を得ることができます。
養育費は夫婦双方の収入を参考にして、家庭裁判所が定める算定表という一定の基準に基づいて金額が決まります。
一度決まった養育費の額も不変ではなく、双方の収入の変化等によって変更することができます。
養育費の相場や獲得方法の詳細については「離婚時の慰謝料の相場とより高額の慰謝料を獲得する方法」をご覧ください。
(4)年金分割
離婚後すぐに得られる金員というわけではないのですが、もう一つ、離婚時に夫に対して請求できるお金として、年金分割があります。
年金分割とは、夫婦それぞれが支払った厚生年金保険料を決められた割合で分割する制度です。
平成16年に法改正されて専業主婦の場合に夫が払った保険料の一部(最大で半分まで)を妻が払ったものとして、将来の年金額が計算されることになったので、年金分割により専業主婦が得られるメリットが大きくなりました。
具体的な請求方法は「離婚時の年金分割をできるだけ多く獲得するための全手順」をご覧ください。
6、母子家庭にはさまざまな助成金等がある
母子家庭の場合、さまざまな助成金や税金の減免等を受けることができる可能性が高まります。生活費を確保するため必要に応じて積極的に活用しましょう。
(1)助成金
①生活保護
生活保護とは、健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条)を保証するために支給されるお金です。相談や申請先はお住まいの地域を管轄する福祉事務所の生活保護担当です。生活保護には、生活扶助・住宅扶助・教育扶助・医療扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助の7種があり、各世帯の状況を考慮し、保護基準にしたがって支給されます。
具体的にどれくらいもらえるかは福祉事務所に問い合わせて確認するのがいいでしょう。
②児童手当
児童手当とは、0歳から中学校卒業までの児童を対象とする手当です。申請先は各市区町村の役所です。
支給される金額は以下の通りです。
・3歳未満の場合:月額10000円
・3歳以上の場合:第1子と第2子は月額5000円、第3子以降は月額10000円
③児童扶養手当
離婚などによって父母いずれかからしか養育を受けられない子どもを対象とする手当です。申請先は各市区町村の役所です。金額については以下の通りです。
子どもが一人の場合
・全部支給の場合月額41020円
・一部支給の場合
所得に応じて月額41010円から9680円まで10円きざみの額
※全部支給か一部支給かは所得により決まります。
子どもが2人の場合
対象児童が2人の場合、上記金額に5000円加算
子どもが3人以上の場合
対象児童が3人以上の場合、上記金額に 1人につき3000円ずつ加算
④児童育成手当
18歳(になった最初の3月31日)までの子どもを養育する一人親を対象とする手当です。申請先は各市区町村の役所です。金額は、児童1人につき月額13500円です。もっとも所得制限があるので、具体的な制限については、申請先である住所地の市町村に問い合わせをしましょう。
⑤特別児童扶養手当
精神又は身体に障害を有する児童について、これらの児童の福祉の増進を図ることを目的に支給される手当です。20歳未満で精神又は身体に障害を有する児童を家庭で監護、養育している父母等に支給されます。
支給金額は等級に応じて、1級51500円、2級34300円です。
特別児童扶養手当についても所得制限があるので、各市町村に問い合わせをしましょう。
⑥母子家庭等の住宅手当
母子家庭等の住宅手当は、20歳未満の子どもを養育している母子家庭で10000円以上の家賃を支払っている場合に給付される手当です。申請先は各市区町村の役所です。支給条件や金額は各役所にお問い合わせ下さい。
⑦ひとり親家族等医療費助成制度
ひとり親家族等医療費助成制度は、母子家庭等の医療費の一部を助成する制度です。受給条件や受給額等詳細は各市区町村の役所にお問い合わせ下さい。
(2)減免等
①所得税・住民税の減免制度
いわゆる寡婦控除です。所得税法上の寡婦に当てはまる場合に受けられる所得控除です。控除できる金額は27万円、特定の寡婦に該当する場合には35万円です。
詳しくは国税庁のページをご覧ください。
②国民年金・国民健康保険の免除
国民年金や国民健康保険の保険料については、収入の減少等の理由により支払いが困難な場合は、支払いを免除あるいは軽減してもらえる可能性があります。
これらの支払いが困難な場合は、制度の利用が可能かどうか年金事務所や各市町村の窓口に相談してみましょう。
③その他
これらのほかに自治体によっては、運営している交通機関の割引制度や上下水道料金の減免、保育料の減免などの制度を用意しているところがあります。離婚に備えて、お住まいの自治体にはどのような制度があるのか確認しておくのがよいでしょう。
まとめ
離婚を考えた場合、やはりお金があるに越したことがないですが、以上のように相手方から得られる金員や公的な助成金、法テラスの活用等によって、お金がない場合でも離婚に向けて動くことができるケースが多々あることがおわかりいただけたかと思います。
お金がないからとあきらめず、一度弁護士に相談に行かれるのがいいでしょう。