長年連れ添ってきたからといって、その先も情に引っ張られて一緒にいるという考え方があるかもしれません。 しかし、冷え切った関係の中で、同じ家の中で互いに窮屈さを感じながら過ごすのが、どれだけ精神的に悪影響を与えるか、私の相談所に寄せられる声を通じて実感しています。
近年、熟年離婚の増加が顕著になっています。 2022年に発表された厚生労働省のデータによると、婚姻期間が「5年未満」の離婚が最も多いものの、「20年以上」の夫婦による離婚の割合が過去最高に達しています。 1950年には3.5%に過ぎなかったこの割合が、2022年には約23.5%にまで増加し、離婚したカップルの約4組に1組が熟年離婚となっています。
この増加の背景には、以下の3つの要因が関係していると考えられます。
① 離婚に対する認識の変化
かつて「離婚」はネガティブに捉えられていましたが、今ではそのイメージが変わりつつあります。 社会全体で離婚経験者への理解が広がり、「バツイチ」という言葉が象徴するように、ある種の軽い雰囲気で捉えられるようになってきました。
② 女性の経済的自立
女性の経済力が向上したことも、熟年離婚の増加に影響を与えています。 専業主婦であっても、自分の年金や離婚後の収入に対する不安が減り、離婚を決断する人が増えています。 また、2008年以降は年金の分割制度も導入され、収入基盤が脆弱な場合でも離婚に踏み切りやすくなっています。
③平均寿命
平均寿命が延びたことで、離婚後も長い人生を自分らしく生きたいという考え方が増えています。 以前は人生の終盤に差し掛かっていると考えられた年齢でも、今ではまだまだ健康で活発に活動できる時期と捉えられ、熟年離婚を選ぶ人が増えています。
しかし、熟年離婚にはリスクも伴います。 特に一人暮らしになった場合、病気や怪我による生活への影響が懸念されます。 経済的にも、パートタイムで働いていた人や年金分割で思うほどの収入を得られなかった人にとっては、老後の生活が苦しくなる可能性もあります。
熟年離婚を考える際には、そのメリットだけでなく、リスクも十分に考慮することが重要です。
■健康・体力面のリスク
離婚して一人暮らしになった場合、重い病気やけがに見舞われたら自立した生活が成り立たなくなるリスクがあります。
夫婦でいればパートナーの介助や看護を受けることもできますが、一人身では、いざという時に助けを求められる誰かを、あらかじめ準備しておくことが必要です。
介護のためだけに無理やり一緒にいるのは打算的と考える人もいますが、「孤独死が怖い」という言葉はこれまで多くの人から聞いてきました。物価高騰、平行線をたどる賃金、人口減、格差拡大など不安が多い環境下で、将来子どもたちが同居して世話してくれるという甘い思考は捨てたほうがよいでしょう。
離婚後の孤独死回避策も考えねばならない案件です。
■経済的なリスク
仕事をしている女性が増えたといっても、フルタイムではなくパートなど短時間雇用の人も少なくないでしょう。自分の年金額が老後生活を支えるのに十分でない可能性もあります。
また、配偶者の扶養から外れることを嫌って、働く時間をセーブしていた方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、離婚時の「3号分割」も計算してみると「思っていたより少なかった」という声は多数。
離婚による厚生年金の3号分割で増えたのは月額3万円程度で、「期待していた額は程遠かった」とのこと。このままでは生活資金が足りないため仕事を探していますが、60代で職歴パートのみの方の職探しは苦労が多いようです。
高齢者の年金生活の実態とは?
厚生労働省の調査結果によると、公的年金や恩給を受給している高齢者において、年金収入のみで生活している世帯は全体の44%です。 これは、多くの高齢者が年金以外の収入を頼りにしなければならない現状を示しています。 具体的には、公的年金・恩給が総所得の80%を超える世帯は60.5%に達していますが、それ以下の世帯も少なくありません。
年金だけでは生活が難しい場合の対策
年金収入のみでは生活が成り立たない場合、高齢者は様々な方法で不足分を補っています。 主な方法として、貯金の取り崩し、退職後の労働、家族の支援、さらには生活保護の受給などが挙げられます。
1. 貯金の活用
調査によると、80%以上の高齢者が貯蓄を持っており、その平均額は60代で1,700万円前後です。 これを生活費に充てることは一般的ですが、計画的な資金管理が必要です。
2. 退職後の労働
体力が続く限り働き続けることも、年金だけで生活できない場合の選択肢です。 短時間労働で不足分を補う一方、年金の受給を繰り下げることで将来的に受け取る額を増やすことも可能です。
3. 家族の支援
仕送りや同居によって家族から援助を受ける方法もありますが、事前に家族とよく話し合い、互いの生活に支障が出ないようにすることが重要です。
4. 生活保護の検討
最後に、貯蓄や家族の支援が難しい場合、生活保護制度を利用することが考えられます。 最低生活費を下回る収入しかない場合、その差額が補填されますが、資産の売却が必要になることもあります。
年金だけで生活することが難しい高齢者が多い中で、様々な対策を組み合わせることが求められています。
「年金だけでは生活できない」と働き続ける70歳の父親は、年金だけでは生活できない半数以上の高齢者の一人であるといえるかもしれません。定年後も体力と気力が続く限り働くことは、年金だけでは生活できない場合の対策の一つです。
十分な貯蓄がある高齢者の場合は、貯金を崩して不足分を補えるでしょう。家族の援助や生活保護制度の活用も対策として検討できます。70歳の父親が仕事をできるうちはいいですが、体力面で難しくなることも想定して、対策を考えておくことは大切です。