「離婚することになったけど夫に対してどのくらいの財産分与を請求できるんだろう。具体的な請求方法を知りたい・・・」
この記事をお読みの方の中にはそのようにお考えの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
離婚時には、夫婦の共有財産を清算する財産分与という手続きをとることになるため、持っている資産の少ない方は、多い方から財産分与にともない一定の財産を受け取ることができる可能性があります。
仮にあなたが専業主婦であったとしても、財産分与として、結婚期間中に夫が働いて稼いだお金の分配を求めることができます。もし結婚期間中に夫がかなりの金額を稼いだとしたら、もらえる金額もかなりのものとなるでしょう。
実際に財産分与の請求をして数千万円〜数億円獲得するケースは珍しくありません。
離婚を急ぐと、ついつい財産分与をもらわないまま別れてしまうことになりかねません。財産分与は離婚後も請求できますが、離婚のタイミングからしっかり話し合いをしておきましょう。
しかし財産分与という制度には分かりづらい点も多く、「財産分与の請求をどのように進めたらよいか?」という相談を頂くことも少なくありません。
そこで今回は、財産分与の全てについて書いていきます。
1、財産分与とは?
(1)財産分与とは
そもそも財産分与とは、婚姻生活中に夫婦が協力して増やした財産を、それぞれが財産アップに貢献した割合に応じて夫婦それぞれの個人財産に分けることをいいます。
結婚前と比較して夫婦の共有財産(夫婦が協力して増やした財産)に変動があった場合に請求が可能です。
例えば、結婚前と比較して夫の稼ぎが増えて貯金が増額したり、不動産を購入したような場合には、妻としてはその増えた財産の半分を請求することが可能です。
(2)財産分与の具体的な方法
財産分与をする場合、多くは現物分割の方法をとります。現物分割とは、各財産をそれぞれ夫婦のいずれかが取得するのかを決める方法です。
これに対して、現物分割が難しいようであれば、換価分割という方法をとることもあります。換価分割とは、財産を売却してお金に換えた上で、そのお金を夫婦で分ける方法です。
2、財産分与として請求できる割合の相場は?
財産分与の請求にあたっては、財産分与の割合の相場を知っておくことが必要となります。財産分与の割合のおおよその相場は夫婦の働き方に応じて若干異なりますが、基本的に半分(2分の1)とされています。
具体的には以下の通りです。
(1)夫婦共働きの場合
夫婦共働きの場合、財産分与の割合は原則として2分の1とされます。
(2)専業主夫もしくは専業主婦の場合
専業主夫もしくは主婦であっても、基本的には2分の1の割合で、夫婦の共有財産の財産分与請求が可能です。
以上の割合を踏まえて、相手方に財産分与の請求をしましょう。
3、財産分与の対象となるのは?
次に重要なポイントとなるのは、財産分与の対象となる財産とそうではない財産を把握することです。
きちんと把握していくことで、財産分与の話し合いがスムーズに進みます。
(1)どの期間に増えた財産が財産分与の対象となる?
財産を取得したタイミングによって財産分与となるか否かが異なります。
①結婚前に増やした財産
対象となりません。
②結婚後に増やした財産
対象となります。ただし、結婚前に持っていた貯金が利息がつくことで増えたなど、結局もともとが結婚前の財産といえる場合は対象になりません。
(2)財産分与の対象となる資産(プラスの財産)とは?
財産分与の対象となるのは現金に限られません。具体的には、結婚中に夫婦が共同して築き上げた財産のうち、以下のようなものが財産分与の対象となります。
①現金
まず当然ながら、預金やタンス預金を含め、現金は財産分与の対象となります。
②不動産
次に土地や建物の不動産についても財産分与の対象となります。
なお、相手の名義(夫名義や妻名義)になっていたとしても、財産分与の対象となります。
③有価証券
株券や社債などの有価証券についても財産分与の対象となります。
④家具・家電
ベッドやテレビなどの家具・家電についても、婚姻後に購入したものについては財産分与の対象となります。
⑤年金
厚生年金、共済年金などの年金についても財産分与の対象となります。
なお、年金については年金分割という制度があります。
年金分割について詳しくは、「離婚時の年金分割をできるだけ多く獲得するための全手順」をご参照下さい。
⑥退職金
退職金についても、退職が近くて実際に退職金をもらえる可能性が高い場合には財産分与の対象となります。
実際にどのような場合にもらえるか、もらえる場合にはいくらもらえるかについては、「離婚時に財産分与として退職金を獲得するために知っておくべき5つのこと」をご参照下さい。
(3)財産分与の際に借金(マイナス財産)の取扱いは?
借金も財産分与の際に考慮されます。
たとえば、夫婦で自宅をもっているものの、住宅ローンが残っているような場合、財産分与の財産の価値を考える際に、自宅の価格からローンの残額を引くという形で考慮されます。
とはいえ、あらゆる借金が考慮の対象となるわけではないので、具体的にどのような場合に考慮されることになるのかをみていきましょう。
①どのような借金が考慮されることになる?
前述の通り、借金が財産分与の際に考慮され得るからといって全ての借金が対象となるわけではありません。基本的には婚姻期間中に夫婦の共同生活のために負った借金が対象となります。
②住宅ローンも財産分与の対象となる?
住宅ローンも財産分与の対象となる可能性があります。
実際にどのように財産分与を進めるかについて詳しくは、「離婚時に住宅ローンがあっても財産分与で損しないための全手順」をご参照下さい。
(4)財産分与の対象とならないもの
一方、財産分与の対象とならないものは以下の通りです。
資産と借金に分けて、それぞれ財産分与の対象とならないものを書いています。
①財産分与の対象とならない資産(プラス財産)の具体例
・結婚する前に個人的に貯めていたお金
・結婚する際に一方が実家から持ってきた家具家電
・個人的に購入した有価証券(株券、社債など)
・自分の親から相続した財産(現金、不動産など)
・洋服や化粧品などの個人的な持ち物
②財産分与の際に考慮されない借金(マイナス財産)の具体例
・収入や生活レベルと比較して明らかに高い個人的な買い物や浪費のためにし た借金
・ギャンブルのための借金
4、財産分与の方法
次は財産分与の方法についてみていきましょう。
財産分与はまず話し合いをし、そこで決着がつかなければ調停→裁判へと進んでいくことになります。
以下ではそれぞれの手続きについてみていきます。
(1)話し合い
財産分与はまずは話し合いで決めるものとなります。
具体的には以下の流れで進みます。
・財産分与の対象となるもののリスト作成
・リストを前提にどちらがどの財産を所有するかを話し合い
このように直接話し合いをすることができればよいですが、別居している場合には、なかなか直接財産分与について話をすることが難しいでしょう。
したがって、まずは携帯メールやLINEなどで、証拠が残るようにして財産分与請求したい旨と金額を伝えましょう。もし相手が話し合いに応じてくれるのであれば話し合いましょう。
これに対して、話し合いに応じてくれない場合には、内容証明郵便というものを送付しましょう。内容証明郵便とは、法的には通常の書面による請求と変わりませんが、郵便局が書面の内容を証明してくれることから、後々証拠として有効です。
(2)調停で決める
調停で争う方法としては、夫婦関係調整調停(離婚調停)で離婚するか否かに併せて話し合うか、財産分与請求調停で話し合うかの方法があります。具体的には以下の通りです。
①申立てに必要な書類
まずは申立てに必要な書類を集める必要があります。
具体的に必要なものは以下の通りです。
・離婚時の夫婦の戸籍謄本
・財産目録
・夫婦双方の財産に関する書類→退職金の明細、給与明細、預金通帳写し、不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書
②申立てにかかる費用
次に申立てにかかる費用は以下の通りです。
・収入印紙 1200円分
収入印紙は郵便局で購入することができます。
・連絡用の郵便切手 800円分程度
各裁判所によって異なりますので申し立てをされる家庭裁判所へ確認してください。
③申立て先の裁判所
原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所となります。
詳しくは、「調停で有利な財産分与請求をする方法」をご参照下さい。
(3)離婚調停でもまとまらなければ、離婚裁判!
もし(2)で離婚の問題と一緒に解決を図り、財産分与についての話し合いがまとまらない場合は離婚訴訟を起こすことになります。
離婚裁判の中で、離婚の問題と財産分与についての問題の解決を目指します。
①裁判離婚をするには離婚原因が必要!
裁判によって離婚をするには、法律が定める離婚の原因(民法770条1項各号)が必要とされています。
具体的には、以下の通りです。
・不貞行為
・悪意の遺棄
・3年以上の生死不明
・回復の見込みのない強度の精神病
・その他、婚姻を継続しがたい重大な事由(暴行、浪費、犯罪、性格の不一致など)
②離婚裁判の流れ
離婚裁判は、以下の流れで進みます。
1.訴状の作成
2.訴状の提出
3.相手方へ訴状の送達
4.第一回口頭弁
5.論期日の決定
6.数回の口頭弁論を繰り返す
7.判決
なお、場合によっては途中で和解が成立する可能性もあります。
③裁判では、証拠の重要性が高い!
裁判では、話し合いや調停の場合と比較して、証拠の重要性が増します。
相手の給与明細や財産目録など、きちんと証拠をそろえて財産分与を請求しましょう。
5、財産分与を有利に進めるポイントは?より高額な財産分与を獲得する方法
財産分与を有利に進めるためには、相手が隠し持っている財産がないかチェックすることが重要です。
財産分与は離婚が決定的になる前に調べておくことが大切になります。離婚が決定的になってから財産分与の準備をはじめると、隠れて財産を処分されたり分けるのが惜しくなったりと思いがけずこじれる可能性もあるからです。
そして財産をチェックしたら、その財産があることの証拠を集める必要があります。
この項目では集めるべき証拠と集め方を紹介していきます。
なお、預貯金などを相手が開示してくれない場合には、弁護士に依頼して「弁護士会照会制度」を利用することによって相手の預貯金を調査することができる可能性があります。
(1)集めるべき証拠
財産分与をスムーズに進めてより多くの財産分与を受けるためには、まずは財産関係を明らかにする必要があります。
財産分与にあたって必要になるものは、例えば、以下の通りです。
・配偶者の預貯金通帳(または通帳のコピー)
・所得を証明する書類(給与明細、確定申告書類など)
・不動産を所有している場合には不動産登記簿
・生命保険に加入していれば生命保険に関する書類
・株などやっている場合には証券口座の明細
など
(2)証拠の集め方
そして、財産分与を有利に進めてより高額な財産分与を獲得するためには、相手が財産をどこかに隠していないかどうかをチェックすることが大切です。そのためには、先程挙げたものを確実に集めることが重要になります。
例えば、預貯金などを相手が開示してくれない場合には、弁護士に依頼して「弁護士会照会制度」を利用することによって相手の預貯金を調査することができる可能性があります。
また、預貯金や株式といった財産の所在が明らかにならない場合のもう一つの手段としては、金融機関とその支店を特定した上で、裁判所に対して「調査嘱託」を申立てて夫婦の一方の財産を調査してもらうことができる可能性もあります。
財産分与は離婚が決定的になる前に調べておくことが大切になります。離婚が決定的になってから財産分与の準備をはじめると、隠れて財産を処分されたり分けるのが惜しくなったりと思いがけずこじれる可能性もあります。(3)財産分与を有利に進めるために主張すべきこと
について具体的に説明していきます。
(3)財産分与を有利に進めるために主張すべきこと
①自分が財産形成に大きく貢献した旨の主張
まずは、ご自身が夫婦の財産形成に大きく貢献したことを主張するようにしましょう。
前述のように、財産分与の相場は基本的には2分の1とされていますが、もちろん例外もあります。例えば、夫婦の協力関係がなかったなど、夫婦の財産を折半するのがかえって不公平な事情があるのであればその点を主張すべきです。具体的には、配偶者を置いて一方的に出て行ってしまっていた場合だとか、刑務所に入っていた場合などです。
②夫婦が協力して財産分与の対象外の財産関係の形成に貢献したとの主張
夫婦が財産形成に協力してはいるものの、本来財産分与の対象にならない財産関係の形成に貢献した言える場合には、財産分与を有利に進めることができます。
例えば、夫婦の一方が不動産を相続し、その際の相続税を結婚後の貯金から支払った場合だとか、夫婦の一方が結婚する前から所有していた不動産を結婚後の貯金を使って大規模修繕した場合などです。
このような場合には,夫婦の一方が本来財産分与の対象外の財産の中に夫婦の協力関係の成果の一部を先取りしていると評価できます。
6、財産分与の税金
財産分与については税金がかかる可能性があります。
譲り渡す側と譲り受ける側でかかる可能性がある税金が異なりますので、以下それぞれ書いていきます。
(1)財産を譲り受ける側
財産を譲り受ける側は基本的には税金を負担しません。
もっとも、譲り受ける財産が相場に比較して多すぎる場合には税金を負担する可能性があります。
(2)財産を譲り渡す側
不動産を譲り渡す場合に、もし不動産を時点の価格より譲り渡す時点の価格が高ければ税金を負担する可能性があります。
もっとも、節税のための様々な制度があります。詳しくは、「財産分与の際に支払わなくてはならない税金と節税方法」をご参照下さい。
7、財産分与はいつまで請求できる?
財産分与はいつまでも請求できるわけではなく、離婚後2年間とされています。
請求可能期間ギリギリの段階で相手が財産を隠しているような場合の対処法を含めて、詳しくは「財産分与を請求できる期限(除斥期間?時効?)について」をご参照下さい。
8、有責配偶者からでも財産分与請求は可能?
有責配偶者とは、民法に定めたれているような離婚原因を作った配偶者のことです。例えば、夫が浮気をして離婚することになった場合の夫のことです。
では、このような有責配偶者からの財産分与請求は認められるのでしょうか。
結論から申し上げますと、有責配偶者からの財産分与請求も認められます。
財産分与は、前述したように、婚姻期間中に夫婦で築いた財産を分けることです。そのため、夫婦のどちらかに原因があって離婚するとしても、婚姻期間中に夫婦で財産を築いた事実は変わりませんので、たとえ有責配偶者からの財産分与請求であっても認められることになります。
財産分与まとめ
今回は財産分与の全てについて書いていきましたがいかがでしたでしょうか?お読み頂き、財産分与の際に損しないようにしてもらえれば幸いです。